Ecological Adaptation
毎日のように侵略会議を行い活動をしているものの、ケロロが考えつく作戦の
いずれもが結果的に侵略が成功するような代物ではなく、だからと言って自分
が思いつく作戦行動は「武力制圧」のみなのだからケロロの事を悪くは言えな
い。
くだらなくて成功率も0%に限りなく近いような作戦でも次から次へと出てく
るケロロの方がまだマシだと思えさえする。
けれども地球侵略の名目でここに侵略作戦先行部隊として送り込まれている手
前、何らかの成果を挙げなければと焦りはするものの、結局は本部までもが舌
を巻いた日向夏美の恐るべき戦闘能力の高さとセンスの良さにより、地球人と
は体格が断然劣ってしまうケロン人の自分達が真正面からやったところで侵略
出来る訳でもない。
同等の体格を持つ為にケロン軍から支給されている地球人スーツを使うと言っ
ても所詮あれは自らの肉体ではなく戦艦の操縦に似たようなもので、自らの意
思を忠実にタイムラグを発生させずに再現できるものではない。
地球の科学力を遥かに上回るケロンのそれを持ってしてあれやこれやと作戦を
練り、どんな兵器を使おうともやはり戦闘において基本となるのは己の肉体な
のだ。
夏美がいくらセンスがあり戦闘能力が高くとも一般市民である以上、軍人とし
て鍛え上げられているギロロが同じ条件であれば負ける確率は無いに等しい。
同考えたってそうなのだ。
リーチの差もあれば性別の違いもある。
女の腕力で男に勝る事など鍛え上げれば上げるほど差は明確なものとなってく
る。
以前プルルが地球を訪れていた時に使用していた「生態変化」がケロロ小隊に
も支給されればと思うが、あれはA級侵略部隊にしか支給されず所詮F級のケ
ロロ小隊には支給される事はない。
「ギロロー。会議さぼんないでよー。」
不意にテントの外からかけられた声は紛う事なき我等が隊長。
声をかけられるまで接近に気付かないとは何たる不覚か。
遠慮もなくバサリと音を立ててテントの中に入ってきたのは見知らぬ地球人だ
ったが声はやはりケロロだった。
「まさか、「生態変化」?」
「んなわけないじゃーん。我輩達F級よー?」
そーですよ所詮F級ですよ、最下級ランクですよなどと頬を膨らませる様はケ
ロロそのものには見えるが、どこからどうみても姿形は地球人でしかない。
「何を使った。」
「クルルの発明したお薬であります。「生態変化」が支給されないなら自分等
で作っちゃえ〜ってね〜。」
まだ実験段階だから実戦には使うなって言われたから侵略活動は暫くお休みな
んだけどね、と付け加えたケロロの言葉は言い終わる前にテントを出て行って
しまったギロロの耳には届いておらず、向った先はやはりクルルのラボ。
開きっ放しだったクルルズ・ラボの入り口で立ち止まりもせずギロロは薄暗い
その中へ飛び込む。
「クルルッ!」
「おやぁ?何か俺様に御用でも〜?」
相変わらずのいけ好かない笑い声と共に発せられた台詞に普段であれば腹を立
てるのだが、今はそんな事に構っていられる余裕はギロロにはなかった。
「ケロロに飲ませた物を俺にも寄越せ。」
「効果の持続時間もスペックもまだ実験段階だから実戦には使えねぇぜぇ?」
「それでもいい。寄越せ。」
「ま、いいけど。ホレ。」
クルルが投げて寄越したのは赤い小さなカプセル。
服用型なのは見て直ぐ判ったし、クルルが黙ったまま水を差し出してきたので
それを口に放り込んですぐさまそれを飲み下した。
遅効性なのか直ぐには身体に変化は現れない。
「ちと苦しいかもしれねぇが我慢しろよぉ。」
ニヤリとクルルが笑った次の瞬間には心臓が大きく跳ね上がる音が聞こえた。
それと同時に込み上げてくる息苦しさに襲われ、身体のあらゆる箇所が軋み始
め、常人であれば意識が吹っ飛んでしまうような痛みに苛まれる。
意識が飛んだのかそれともただ目の前が真っ白になっただけなのか判らなかっ
たが、一瞬無くなった視力が戻ってみれば床に付いた手はケロン人のそれでは
なくペコポン人のもの。
「どーよ。ペコポン人になった気分は。」
「悪くは、ない。」
とは言ったもののクルルの声がやけにゆっくりと聞こえた。
身体の動きもどこか緩慢に感じられる。
「先輩が飲んだのは隊長が飲んだ物とはちと違う。それは戦闘に特化させたモ
ンだ。まぁ隊長が飲んだのもケロン人の状態でいるよりは多少戦闘能力が数
値上は上がってる。それはケロン人とペコポン人の差だと思っていい。それ
に比べれば先輩が飲んだモンはケロン人からペコポン人になったことで上が
る戦闘能力が0.5だとすればそれにプラスアルファとして身体能力と感覚
が研ぎ澄まされている状態になってる。ケロン体での先輩の総合戦闘能力が
1だとすれば隊長が飲んだのと同じただ「ペコポン人になる」というだけで
1.5。それにプラスされているから数値的には凡そ3。戦闘行為に及べば
もっと数値は跳ね上がる。それは未だ実験段階だから正確な事は言えねぇ。
その身体は先輩の身体であると同時にペコポン人仕様なもんだからリーチに
違いがでる。挙句感覚、身体能力までも上がってるからな。制御しきれるか
どうかは先輩の努力と元々の身体センスにかかってるってぇ訳だ。」
「それが実戦に使うなという理由か。」
「その通り。先輩の射撃の腕はピカ一だってのは判ってるが、常に戦闘中の極
限状態と同じ状態がデフォルトなんだ。制御できるようになるまではたとえ
実戦で使ったとしても果たしてうまく立ち回れるかどうか判らない。」
「味方や一般市民を巻き込むわけにもいかんしな・・・」
「だがこれは「実験」だ。しっかり付き合ってもらうぜぇ。」
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