「ゲロ。ギロロ伍長は何をしているでありますか・・・」
「俺様の実験に付き合って貰ってんだよ。隊長じゃ正確な数値弾き出せねぇか
らなぁ。」
「クルル曹長・・・何気にそれ、酷くない・・・?」
Ecological Adaptation
「それにしたってギロロ全然駄目じゃーん?」
「服着るのも一人でできなかった隊長に比べたら、たいしたもんだぜ。こりゃ
マジであのじゃじゃ馬乗りこなしちまうんじゃねーの?」
室内に反響する銃声から聴覚を守るためにヘッドフォンをしているとは言え、
元々地獄耳のギロロに彼等の会話は筒抜けだった。
かといって反論する気にはならないのはケロロが言っていた通り「全然駄目」
だからだ。
クルルに言われまずはウォーミングアップとして射撃訓練をする事になって彼
此三時間以上が経過している。
始めて直ぐ、否始める前から異変は感じていた。
何時も使っているはずの銃を持った瞬間にこんなに軽いものだったのかと思っ
た。
そして何時も通りにCPUが指し示す場所を狙い撃ったはずが的に当たる事な
く妙な方向へと飛んでしまったのだ。
その後何度となく撃ち込み、どれほどの弾丸を消費したかわからない。
的に当たるようにはなったものの狙った場所に的確に撃ち込む事が出来ないの
だ。
掠りもしなかった物がずれているとは言え的に当たる様になっただけまだマシ
なのかと思ったが、ここまで到達するのに三時間ものの時間を費やし、どれだ
けの弾丸を消費したことか。
「先輩。少し休んでいいぜ。」
ヘッドフォンから聞こえたクルルの声。
これで何度目だろうか。
クルルが適当な頃合いを見てはそう声を掛けてくるが、この狙った場所を撃ち
抜けないという事態がギロロのプライドに関わってしまっている所為で何度も
その言葉を無視してきた。
クルルの実験に付き合っているはずが、ギロロのプライドを賭けた射撃訓練に
付き合わせてしまっている状態になり、当初の目的とずれて来ている。
「初っ端からその感覚を制御しきれるとは思ってねぇよ。三時間ぽっちで的に
当てれるようになっただけマシだぜ。少し休めよ。流石の俺様も疲れた。」
その言葉を聞いて漸くギロロは銃口を下ろし、引き金から指を外して訓練場を
出れば扉の正面の壁に寄りかかるようにしていたクルルが顔を上げた。
「すまん、クルル。」
「構わねぇよ。想定内だぜ。」
「上でお茶淹れてきたでありますよ。ギロロも気分転換にどうでありますか?」
何時の間にか居なくなっていたケロロが戻ってきてにこやかにそう言った。
あまり張り詰めていても仕方ないとクルルも珍しく賛同し、三人で日向家の居間
に向った。
いつもであればガンプラガンプラと喧しいケロロまでもが気を遣ってくれている
事で少し自分が情けなく感じられ、ギロロはこっそりと溜息を一つ吐く。
テーブルを挟んでソファに座り一息ついてみれば全身に力が入り強張っていたの
だろう、急に身体が軽くなったように感じた。
「これでは当たる筈がないな・・・」
「そう肩を落としなさんな。ケロン人とペコポン人の差はそんなもんだ。急に生
態変化を使った連中だってそう簡単にあれを使いこなせないのと同じ原理な訳
よ。当然あれを支給されてるA級侵略部隊だってそりゃぁ何ヶ月もかけて訓練
してんだぜ。ガルルの野郎だってあれを使いこなすのに2ヶ月かかってる。そ
りゃぁ惨憺たるモンだったぜ。」
「そうか、あれの研究実験機関はお前が指揮を執っていたな。」
「それに本部のアレはケロン人とペコポン人の差なんて殆ど0に等しい。ケロン
人本来の力を増幅させることもしなけりゃリーチの差の調節なんかもある程度
できるようになってるからな。ある程度訓練は必要だが俺様が今回作ったモン
に比べりゃカスだカス。」
「しかし今回はなんでまたこんな物を?」
「そりゃぁ隊長が「我輩も生態変化した〜い」なんて駄々捏ねたからだぜぇ。そ
れに俺様はあれと同じモンを作るくらいならもっと性能いいヤツ作りたかった
ってのもある。」
「ゲローォッ!」
クルルとギロロの会話を止めるようにして急にケロロが大声を出したのに両者が
驚いて振り向けば、冷蔵庫に貼られた紙を指し示しながら振るえつつ顔面蒼白に
していた。
「こここここれ・・・」
来い来いと片手で呼ぶケロロを不信に思いながら席を立ち隣に行って指し示す紙
をみれば学校で配られる通知の紙だった。
差出人が第一学年主任となっていることから冬樹のものだと判る。
「これがどうかしたか?」
「よく見るでありますよ・・・!」
「授業参観のお知らせ・・・」
「しかも今日!今!これから!」
「くくーっ。そりゃ大変だ。日向秋は今日缶詰で出てこられねぇぜぇ。」
なんでそんな事を知っているのかと突っ込みたい所だったがそうも言ってられない
状況らしい。
普段から母親がこういった学校行事に参加できないことが多い日向家の子供達は、
一応母に報せはするものの来れない事がわかっている為無理をしないでくれと母を
気遣う傾向にある。
本来であれば来て欲しいに決まっているのに。
ギロロもケロロも父兄が軍人であるが故にこういった行事に顔を出せない事が多か
った為に、彼女等の気持ちがわからないわけではなかった。
来れないものだと割り切っていても、同級生の母親なり父親なりが学校を訪れにこ
やかに手を振り合う様に憧れやら羨ましさやらを感じ、来ないと諦めていた所にひ
ょっこり顔を出されればそれはもう飛び上がる程に喜んだものだ。
「あーモシモシ?ママ殿?冬樹殿の授業参観の事知っているでありますか?」
さっきまで顔面蒼白でガタガタしていたケロロは何時の間にか日向秋に連絡を取っ
ている。
電話を挟んで耳をつければあちらの声も聞こえる。
『今日でしょう?どうしても都合つかなくて冬樹に謝っておいたんだけど・・・』
「どうしても抜けられないでありますか?」
『ごめんねケロちゃん。締め切り近くて・・・』
電話口の向こうから聞こえる沈んだ声に、親も大変なのだと思う。
「我輩が行ってもいいでありますか?」
『ケロちゃんが!?』
突然の申し出に秋も驚いただろうがそれを聞いていたギロロもまた驚く。
ペコポン人の姿であるケロロが行ったところで冬樹は気付くかどうかも判らない挙
句に、いくら宇宙人だとバレないとは言え、いつこの効力がきれるかも判らない状
態だ。
万が一あちらで効力が切れてしまえば大騒ぎどころか冬樹にも迷惑が掛かる。
「任せるでありますママ殿!しっかり記録してくるでありますよ!」
『そうね・・・帰ったら見させて貰うわ。冬樹にもそう伝えて。お願いね、ケロちゃ
ん。』
「了解であります!」
「お、おい、ケロロ・・・いいのか・・・」
「当然であります。ギロロだって判ってるでありましょう?子供にとって授業参観
はガンプラの出来栄えをママ殿に自慢するが如きであります!」
「くくーっ。それはちと違う気がするぜぇ。」
「2時50分からの授業だからー。」
「今1時30分だぞ・・・」
「ゲロッ!20分しかないじゃん!」
「俺様が留守番しといてやるから言ってこいよぉ、隊長〜。」
「よっし!行くぞ!ギロロ!」
「ええええ!?なんで俺まで・・・」
「授業参観はスーツって決まってるからな、着替えていけよぉ。」
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