何時もの様に軽い睡魔に襲われて、逆らうことなく誘われるようにしてベッド
へ潜り込んだまではよかった。
明かりを消し、目を閉じれば何時もの暗闇。
一定のリズムを刻む秒針の音以外聞こえない部屋に一人でいる事にふと怖くな
って、すぐそこまで来ていた睡魔がどこかへ行ってしまう。
目を閉じても開けてもそこにあるのは暗闇だけで、それがまた恐怖を増長させ
それを振り払うようにして布団を頭まですっぽりと被ってぎゅっと目を閉じた
のに、秒針の音の所為で余計な事を考えてしまう。
「もしも」ばかりを考えて、起こり得る可能性が零ではない事で、自分が宇宙
人で侵略者で。
考えれば考える程眠気は遠のいて、考えた先の結果は必ず最悪なものにしかな
らず、その恐怖を払拭させる為にガンプラでも作って気を紛らわそうと目を開
けてもそこにあるのはやはり暗闇。
布団を被っているからだとそこから這い出てもやはりそこも暗闇で、一瞬だけ
好きな事を考えたことで消えかけていた恐怖がまた戻ってくる。
咄嗟に枕を抱きかかえて部屋を飛び出し、一階へと上がったのだが、日向家の
人々は一様に寝てしまっているのか明かりもなければ物音一つなく、何時もど
こか暖かく感じていた家の中は寒々しい。

It is not possible to sleep




明かりのない居間への扉をそっと開けて中に入れば、外にある街灯がカーテン
を透けて僅かに部屋の中に明かりを届かせていた。
今日はここで寝よう。
明日の朝には夏美が朝食を作りに降りてくるから。
そうしたらまた「ボケガエル」とか言ってくれるはず。
期待してソファの上に寝転がって目を閉じるが、何の音もしないことにまた不
安になる。
音がすれば恐怖を感じ、しなければ不安になり、結局どうしたらいいのかわか
らなくなって起きてしまう。
カーテンを開けて窓の外を見れば、そこにはギロロのテント。
きっと寝ているんだろうなと判っていても、どうせ気心の知れた相手だから、
こんな時間にあそこへ行っても文句を言われたところで何時ものように受け流
せるだろう。
窓の鍵を音を立てないようにして下ろし、窓もゆっくりと開けて庭へ出る。
自分がいくら音を立てないように動いても、きっとギロロは窓の鍵を下ろした
時点で目を覚ましただろう。
そっと近づいて名前を呼んでも反応がない。
目を覚ましていないはずがないのに。
声をかけた事で気配の主がケロロだと判ったから反応しないのかもしれない。

「ギロロ、起きてるんでしょ。」

もう一度声をかける。

「寝ている。」

今度は返事があった。
それが入ってもいいという了承だと受け取って勝手にテントの中へ入れば、ギ
ロロはこちらに背を向けて横になっている。

「ちょっと寝れなくてねー・・・」

だからと言ってここにくる理由にはなっていないのはケロロ自身がわかってい
たが、いい訳をしなければいけないような気がした。

「一緒に、寝てもいいでありますか?」

反応を返さないギロロに不安を覚えつつもそう切り出せば、少しの間を置いて
から掛けていた毛布から手が出てきて、足元の方を指さした。
それを目で追いかけると予備の毛布。
勝手にしろということだろうか。
四つん這いで毛布を取りに行って広げて肩に掛ける。
何が入っているのか判らないが箱があったのでそこに寄りかかるようにして座
り目を閉じた。

「ねぇ、そっち行ってもいいでありますか?」

「・・・好きにしろ。」

ギロロに背中を預けるようにして横になってもまだどこか不安で仕方が無く、
寝返りを打ってギロロの方を向いても視界にあるのは向けられた背中。

「触ってもいいでありますか?」

「勝手にしろ・・・」

きゅっとギロロが掛けている毛布のを掴んでみても、やはり不安も恐怖も取り
除けない。

「こっち向いて欲しいであります。」

寝込みを襲われた時直ぐ攻撃できるように利き手である右腕を上にして寝る癖
のあるギロロが今そうしていないのは、きっとケロロが来たから。
ケロロに対して背を向けたかったから。
背中なんて見せないで。
こっちを向いて。
一向に動いてくれないギロロにまた不安と恐怖が押し寄せてきた。

「ねぇってば・・・」

握り締めていた毛布を少し引っ張れば、大袈裟な溜息を一つ吐いて、様子を伺
う程度に振り向いた。

「ちゃんとこっち、向いて。」

不機嫌そうな顔のままギロロは身体もこちらを向けた。
その胸に飛び込んで額を擦りつければギロロの気配が少し和らいで、「どうし
た」とだけ。

「何か寒くってさ。」

夏も終わり秋の気配が濃くなってきて、夜にはすっかり寒くなった。
でも本当はそんな事じゃない。
本当は何もかもが怖くて寂しくてしょうがない。
軍人が情けないと言うだろうか。

「そうか。」

ギロロもそういうことがあったりするのだろうか。
母星を離れて長い。
地球の人々とも割といい関係を築いているけれど、やはりケロンが懐かしい。
軍人となった時点でそんな甘っちょろい事は捨てようとしていたけれど、所詮
感情を捨てることなどできはしないのだ。
生物である以上捨てられない。

「ギロロ・・・」

「・・・ん。」

「ぎゅってして。」

「寒いのか・・・?」

「ううん。怖い。」

絶対呆れられると思った。
溜息吐かれると思った。
でもこれが本音。
なのにギロロは何も言わずに抱き締めてくれる。
ちょっと驚いた。

「こうして、一緒に寝るのって何年振りでありましょうな・・・」

子供の頃は寒ければ一緒に寝たりもした。
怖かったらお互いの身体を抱き締め合って寝たりもした。
流石に大人になってそれもできないと我慢してきた。

「目を閉じろ。寝るまで、こうしててやるから。」

寝るまでなんて言わないで。
どうせなら朝までこのままにしてて。



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