Without saying the goodbye G-Side
惑星メガトンを侵略中のベタタ小隊が食中毒により全員帰国、急遽ギロロを三階
級特進付きで隊長に任命すると本部より通達があった。
転属の為ケロロ小隊より離れることが確定となり、ケロロ小隊、日向家の面々が
別れを惜しみつつ見送る中ギロロは東京駅零番ホームから惑星メガトン行きの銀
河鉄道に乗り込んだ。
当然見送りをしてくれていた全員がまっすぐにギロロが惑星メガトンに向ったと
思っただろう。
けれどもギロロは地球からさほど離れていないとある惑星に降り、そこからケロ
ン星行きの銀河鉄道に乗り換えたのだ。
この通達の事を信じていないわけではない。
本来であればまっすぐに惑星メガトンへと行き、待っているであろう部下の者達
と合流しすぐさま惑星メガトンの侵略活動に入る。
ケロン星に向う事にしたのはこの通達が「何時発令されたのか」ということ。
子供の頃から宿題をやらないわ提出物は出さないわのケロロだったが、それは大
人になってからも変わってはおらず、本部から送られてくるこういう通達などは
大体期限ギリギリか過ぎてから発見されたりするのだ。
それともう一つ。
昔最後までギロロはケロロの部下であり続けるという話をしたことがあった。
これを約束とするのであれば、口の達者なケロロの事だからいくら本部からの通
達と言えどあれやこれやと言いくるめてギロロを手放す事はしないはずだ。
約束を忘れていそうな気がしなくもないが、案外ケロロは忘れた振りをしていつ
までも憶えていることがよくある。
とすれば今回のように何も言わずしてギロロを小隊から送り出すなどと言う事は
しないはずだ。
どうせ一ヶ月か二ヶ月前に送られてきた通達なのだろう。
仮説とはいえかなり確信がある。
そういう事もあるからこそ、ギロロは直接惑星メガトンへは向わずにケロン星行
きの銀河鉄道に乗り換えたのだ。
ペコポンへいく前から自分の隊長はケロロだけだと決めていたし、ケロロにして
もギロロを他の部隊へ渡す事はしないと言っていた。
もし本部へ口が通用しないのであれば態と期限が過ぎるのを待っているだろう。
これが幼馴染で親友で信頼の現れだとすれば怒る事はしない。
多少文句は言ってやるつもりではあるがそれは建前であって、それが真実だとす
れば安心すべき事だ。
しかしこの通達が期限内であればと思えば心中穏やかではない。
自分が隊長になり小隊を率いて星一つを侵略するというのはかなりの魅力である
事に変わりはないが、過去に何度も昇格を断っていただけに今回ばかりは自ら断
るわけにもいかないだろう。
とすればギロロを絶対に手放さないと言っていたケロロを信じるしかないのだ。
これが自惚れであろうとなかろうと、ケロロが隊長で自分はケロロ以外の部下に
なることはない。
とにかくこの仮説を確かなものにする為、ギロロは実兄であるガルルに連絡を取
った。
『どうした?珍しいな。』
通信に出るなりそう言う実兄の背後から聞こえた戦闘中である事を報せる大きな
音に少し気まずさを感じながらもギロロは声を出した。
「惑星メガトン侵略の話だが。俺が隊長になると言う話を聞いているか?」
『ああ、だがそれは一ヶ月前の話だぞ。それに本部になんの連絡もないと言うか
ら流れたはずだが?』
「そうか、ならいいんだ。それでいい。」
『惑星メガトンには別の人物が隊長として派遣されているはずだ。お前は引き続
きペコポン侵略の任務に当たれと・・・』
「うん。行くつもりはないから、それでいいんだ。」
『・・・ケロロ君らしいな。』
「休暇だと思って実家に行くさ。」
『そうか。こちらの戦闘は直ぐに終わる。私も実家に顔を出そう。』
「休暇とれるのか?」
『二日くらい取ったとしても誰も文句は言うまいよ。』
「久しぶりに白兵戦の訓練でもするか。」
『そうだな。楽しみにしている。』
「じゃぁケロンで会おう。邪魔したな。」
『構わん。どうせ私は出る幕がない。』
ガルルとの通信を切って車窓から星空を眺めながらギロロは少し顔が緩んでい
るような気がして、直そうとしたのだがどうも直らないことが判って諦めた。
自分の仮説は間違っていなかったというのに安堵したのと、ケロロがあの約束
を忘れていなかったのだろうと判って少し幸福感にも似た感情が現れて顔が緩
んでしまったまま元に戻らないのだ。
いずれにせよケロンに到着すれば実兄との白兵戦の訓練、ペコポンへ戻ればケ
ロロにどう文句を言ってやろうかと考えたい事は沢山ある。
「帰ったら仕返ししてやる。」 |